次のような疑問に応えます。
- 労働時間短縮、ワークライフバランス、ダイバーシティ、女性活躍、ハラスメント防止、子育て支援など、なんでもかんでも「働き方改革」なのね? いったい「働き方改革」って何もの?
- 「働き方改革」って生産性を上げる取組みなんでしょ? だったらモノやサービスを生産して売ってるわけじゃない公務員の仕事には直接関係ないんじゃないの?
この記事を書いているのは、関東地方の県庁で30年間公務員として働き、独立したキャリアコンサルタントです。
県庁では主に産業労働の分野で、企業誘致や中小企業支援をしていました。
確かに労働問題に関する事象は、なんでもかんでも「働き方改革」という言葉とともに伝えられます。
このことがかえって、「働き方改革」の本質や意義をあいまいで分かりづらいものにしてしまっています。
この記事では「働き方改革」の核心を、誰にでもわかるよう、ごくシンプルにサクッとお伝えします。
もくじ
- 1 「働き方改革」とは国民総動員の ”稼ぐ力アップ大作戦” のこと!
- 2 「働かせ改革」から「働きがい改革」への軌道修正
- 3 公務員にとっての「働き方改革」の意義
- 4 雑感
1 「働き方改革」とは国民総動員の ”稼ぐ力アップ大作戦” のこと!
① 生産年齢人口の減少
ご承知のように、日本の人口減少とともに、15~64歳の生産年齢人口も想定以上のペースで減少しています。
24年前のバブル崩壊後、ちょうど団塊ジュニア(今の48~51歳)が労働力として加わった1995年をピークに、生産年齢人口は減少の一途をたどっています。
産業界では当然人手不足が深刻化し、特に建設や飲食・介護サービス業界などでは外国人労働者頼みの現状です。

さらに、我が国の高齢化率も世界一のスピードで進み続けています。
既に年金制度は事実上崩壊。
国による医療や介護サービス負担も急増。
国の財政はなんとか借金で食いつないでいる状況です。
これは地方自治体の財政も同様です。
② ケア労働に従事する従業員の増加
下のグラフは、専業主婦世帯と共働き世帯の推移です。
共働き世帯数は増加の一途。
1990年代半ばに専業主婦世帯数とみごとに逆転しています。
かつての「有閑マダム(暇を持て余す主婦を揶揄する言葉)」はもう死語になっています。

長寿命化の進展は望ましいのですが、同時に現役勤労者への介護負担の増加にも直結する問題ともなっています。
かつてのように、親の介護は妻にまかせるといったことは現実的ではなくなりました。
国による介護保険制度サービスも十分なものとはいえません。
実際、70~80代の親の介護のために、40~50代の子供が仕事を休んだり、時には辞めたりしなければならない現状があります。
介護などのケア労働のために、社会から労働力が奪われているといった状況に直面しているのです。
社会的な負担ますます増えていくことに伴い、それを支えるべき労働力がますます失われていくという悪循環です。
③ 政府による「1億総活躍社会の実現」キャンペーンの発動
このような社会の危機的状況を背景にして、政府が打ち出した一大キャンペーンが「1億総活躍社会の実現」であり、「働き方改革」はその一手段なのです。
以下は厚生労働省のホームページからの抜粋です。
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにするこを目指しています。
なんだかまどろっこしいので、簡単に言い換えるとこうなります。
- このまま働く人の数が減り続けていったら、日本全国の稼ぐお金の総量が減ってしまう。そうすると、国民の皆さんは今のような生活レベルが保てなくなりますよね。
- もし「働く人が減る中であっても、今の生活レベルを維持したい」と国民が望むならば、1人当たり(あるいは1時間当たり)の稼ぎを増やしていくしか方法はないでしょ!
- だったら一億総動員して、稼ぐ力をもっと増やしましょう!
ということです。
そして国は、「稼ぐ力を増やすためにこんな方法もあるでしょ!」と言っています。
- 健康であれば、70歳や75歳までずっと稼ぎ続けましょうね。
- 日本企業に多い長時間労働という習慣を失くせば、女性や高齢者は安心するだろうから、働き手をもっと増やすことができるでしょ!
- 長時間労働が無くなれば、若い人たちも家庭で過ごす時間が増えるので出生率も高まって将来の稼ぎ手も増やせるでしょ!
- 育児や介護をしければならい人が会社を辞めないで稼ぎ続られるように、会社側も休みやすい制度を作るなど、働きやすい配慮をしましょうね。
- 例えば、パン屋さんならロボットを導入して1時間当たりの生産量を増やしてもっと効率よく稼ぐようにしましょうね(生産性の向上)。
- 非正規社員というだけで正社員の半分の給料ならば、やる気を失くすのは当然でしょ。「同一労働同一賃金」にして、働き手のやる気アップを図ってもっと稼いでもらいましょうね。
- 女性というだけで管理職に登用されないというのでは能力ある女性のやる気を奪ってしまうでしょ。女性活躍を促進してやる気アップにつなげてもっと稼いでもらいましょうね。

要するに「働き方改革」とは、国民総動員の “稼ぐ力アップ大作戦” なのです。
2 「働かせ改革」から「働きがい改革」への軌道修正
このように平成28年(2016年)から、国主導の“稼ぐ力アップ大作戦”としての「働き方改革」がスタートして今に至っています。
果たしてこの「働き方改革」はうまくいっているでしょうか。
当初、「働き方改革」=残業の削減といったイメージ一辺倒でした。
一部で今でもそうかもしれません。
私のいた役所でも、「残業はするな!でも仕事はしろ!」といった風潮でした。
業務量は減らない中で職場からは定時に追い出されるわけですから、仕事を自宅に持ち帰ることになります。
実質的なサービス残業が増え、結果的な労働強化につながりました。
これが、「働き方改革は働かせ改革だ!」と一部で揶揄されるゆえんです。

このような教訓から最近の傾向としては、残業抑制という「量」的な取り組みだけでなく、労働者のやる気アップという「質」的な側面を重視するようになっています。
「働かせ改革」から「働きがい改革」へのシフトです。
働き手のモチベーション(やる気)をアップさせれば、自ずと時間当たりの業績(生産性)も向上するだろう、との考え方です。
モチベーションアップの工夫として企業ではこんなことが行われています。
- 工場での生産性向上のアイデアを募集し実績を上げた社員には報奨金を出す。
- 仕事のスキル向上を目的とした資格取得のための勉強休暇制度を導入する。
- 人事面接とは別に、上司との定期的なキャリア面談を行い意思疎通の機会を増やす。
- 障がい者でも外国人でも派遣社員でも、多様な立場の人の存在を尊重して気持ちよく働いてもらえるような配慮をする(ダイバーシティ経営)。
- 社員のストレスチェックや福利厚生の制度を充実して働きやすい職場づくりをめざす(健康経営の実践)。
3 公務員にとっての「働き方改革」の意義
「働き方改革」とは、“稼ぐ力アップ大作戦”であるとお伝えしてきました。
では役所の場合、どうでしょう?
役所において「稼ぐ」というイメージは、一見ちょっと馴染まない気がしますよね。
でも少し考えてみてください。
例えば、「稼ぎ」イコール「収益」として捉えてみます。
一般に「収益」は、「売上」から「経費」を差し引いたものです。
「収益」 = 「売上」 - 「経費」
つまり「収益」を上げる方法には2つあります。
一つは「売上」を大きくすること。
そしてもう一つは、「経費」を抑えること。
国全体の「収益(稼ぎ)」を少しでも上げるためには、「経費」を少しでも抑制すること。
国や自治体における財政支出をなるべく抑える努力をすれば、収益アップに貢献できることになります。

あるいは、同じ「経費」を支出するにしても、より高い効果や業績が得られるよう、努力と工夫をすることです。
投資対効果の最大化です。
このような観点から捉え直し、公務員であっても当然「働き方改革」に貢献する意義があるのです。
それどころかむしろ、誰よりも率先して、“行政からの生産性革命”に取り組まなければならない立場であるとも言えましょう。
4 雑感
「潜在扶養率」という言葉をご存じでしょうか。
65歳以上の人口に対する、25~64歳までの現役世代の人口を示す数値です。
国連の発表による2020年推計値では日本は1.8と、驚くことに世界で最も低い数値です。

2人に満たない現役世代が、1人の高齢者を支えているイメージです。
調査対象の約200か国のうち、潜在扶養率が2.0を下回っているのは日本だけです。
高齢者のための、公的なインフラや社会保障制度維持のための財政負担が、ますます難しくなることを示しています。
「量」と「質」双方の側面から、知恵と工夫による対応が急務です。
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