総務省の統計データを見ると、最近の若手地方公務員の早期離職の増加が目立ちます。
大きな期待を持って入庁した若手公務員が、就職後何らかの失望を感じた結果であるともうかがわれます。
私自身もこれまで、有名大学を卒業して入庁した若手職員が、わずか数年で離職していく姿を多く見てきました。
それが本人として不本意な離職であるならば、無念な気持ちです。
今回は、就職後、今どきの若者が感じやすい「リアリティショック」の内容とともに、不本意離職の予防的対応についてお伝えします。
前置きが長いので、結論の「3 不本意な早期離職は防ぐことができる」からお読みくださってもけっこうです。
この記事を書いているのは、関東地方の県庁で30年間公務員として働き、独立開業したキャリアコンサルタントです。
県庁では主に産業労働の分野で、企業誘致や中小企業支援をしていました。
もくじ
- 1 若手地方公務員の離職率の増加と「リアリティショック」
- 2 「成長志向」の高い今どきの若者の「リアリティショック」
- 3 不本意な早期離職は防ぐことができる
- 4 雑感
1 若手地方公務員の離職率の増加と「リアリティショック」
このところ、30歳未満の若手地方公務員の離職が急増しています。
総務省「地方公務員の退職状況調査」によれば、平成29年の普通退職者は7,123人。
うち30歳未満の退職者は2,402人。退職者全体の33.7%を占めています。
5年前(平成24年)は約半分の1,227人。全体の19.1%でした。

退職者全体の増加率は+11.1%であるにも関わらず、驚くことに、30歳未満の若手公務員の離職は、この5年で実に2倍近く、+95.8%に伸びているのです。
どうでしょう。現役職員の方による実感とも重なるのではないでしょうか。
「リアリティショック(reality shock)」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
新たな職についた労働者などにおける、期待と現実との間に生まれるギャップにより衝撃を受けることです。
最近の若手公務員の中には、「こんなはずじゃなかった」というショックを受けて、離職していくケースも多いと思われます。
2 成長志向の高い今どきの若者の「リアリティショック」
① 入社の決め手は「自らの成長が期待できること」
就活生による入社の決め手は、「自らの成長期待」がトップ理由です。
リクルートキャリアが2019年卒学生に対して、「就職先を確定する際に決め手となった項目」を尋ねた結果、「自らの成長が期待できる」が47.1%と、約半数が回答しています。
「人生100年時代」「職業寿命の伸長」という現象が生じ、従来からの「より安定した就職先を選ぶ」といった考え方から、
「長い職業生活においては組織に頼らず自らの成長こそが人生の安定につながる」といった価値観への変化もうかがえます。
ところが、このように就職前、職場での高い成長を重要視し期待する若者たちは、実際に就職したとたん、多くの場合、その期待が脆くも崩れ去るという実感を味わうこととなります。
② 成長期待に関する入社前後のギャップ
以下は、パーソル総合研究所「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」(2019.2)結果です。

学生時代の成長期待と、入社後、社会人になってからの成長実感には大きなギャップがあります。
「仕事を通じて成長したい」と思っている学生は86.2%に対し、「成長を実感できている」社会人は64.6%です。
実に21.6ポイントものギャップが生じています。
なお、もう一つの調査項目である、「働くを楽しみたい」と思っている学生79.3%に対し、「楽しめている」社会人はわずか35.3%です。44.0%のギャップです
働くを「楽しむ」ということは、何も享楽的な楽しさではなく、仕事にやりがいを感じたり、興味を持って取り組めていたりするかどうかという意味合いを含みます。
また、入社後、何らかのリアリティショックを受けた人は76.6%みられました。

予定通りの順調な社会人生活が始まったと感じている人は4人に1人しかいないことになります。
そして、このようなリアリティショックがさらに増大していくような場合には、やがて「もっといい会社」を求め、不本意ながらの早期離職へ舵を切る可能性が出てきます。
③ 20代若年者の離職理由トップ5
就職支援会社アデコグループに「新卒入社3年以内離職の理由に関する調査(2018年)」によると、離職理由トップ5は次のとおりです。
1 「自身の希望と業務内容のミスマッチ」 37.9%
2 「待遇や福利厚生に対する不満」 33.0%
3 「キャリア形成が望めないため」 31.5%
4 「長時間労働のため」 31.2%
5 「上司や同僚との人間関係によるストレス」 25.8%

注目すべきは、第3位の「キャリア形成が望めないため」という理由が31.5%もあることです。
つまり若年者自身が、自分のキャリアへ大きな関心や意識を持っており、今の組織では人生において自身が望むキャリア形成に期待が持てないと感じているのです。
※ 各調査は、民間企業への内定者及び社会人を対象としたものですので、公務員とは多少の違いがあるかもしれません。しかし今どきの若者の意識として十分参考になるものです。
3 不本意な早期離職は防ぐことができる
① 役所での不本意離職のきっかけ
みてきたように、今どきの若者は、特に自己成長を望む人が多いとの実感です。
日々、自己成長を重ねながら、自分の人生は自分でつくっていくといった、「キャリアの自律」といった視点からは、非常に頼もしい限りです。
少なくとも、私のようなバブル世代(主に50代)でこのような考え方を持つ人はごく少数派です。
離職をすることが一概に悪いということではありません。
自身の成長のため、やりたいことを貫くためなどの強い信念を持って、転職や独立をするのはむしろ応援します。
残念に思うことはただ一つ。
本人にとって、不本意な離職です。
「ほんとうは辞めたくない」という気持ちを持ったまま辞めていくような、不本意離職です。
若者自身の自己成長のチャンスを逃してしまう可能性のある離職は防ぎたいのです。
役所の例ではこんなこと。
事例1
人の役に立ちたいと思い市役所に入った。毎日、書類の作成やファイル整理の仕事ばかり。誰かのために役立っている実感が持てない。やりがいも感じられない。こんなはずじゃなかった。辞めたい。
事例2
県庁では自分が得意の英語の実力を発揮できる国際課で働きたいと思っていたが、希望する異動が叶いそうにない。上司に相談したいと思っているが毎日忙しそうで話しかけづらい。辞めちゃおうかな。
事例3
市役所では地域振興課に配属された。学生時代のイベント運営の経験を活かして新しい企画書を上司に提出した。しかし内容よりも書類の体裁や「てにをは」の指摘ばかり。やる気減退。
役所への就職前、たいていの若者は自分なりの仕事のイメージを持ち入庁してくるものです。
入庁前ですから、役所での実際の仕事が具体的にどういったものか知らないのが当然です。
ですから、入庁前の役所イメージと入庁後の現実にギャップがあるのも当然です。
一方、本人はその “ギャップが当然” であるという認識は、一般に薄いようです。
② 不本意離職を防ぐために
今はどんな情報もネットで手に入ります。
彼らは、役所はどのような職場か? ということなども自分なりに、事前にググっています。
しかも、事前にググった一面の情報をそのまま信用する「素直さ」があります。
なのでその分、なおさらのこと現実体験とのギャップに、「こんなはずじゃなかった!」と大きなショックを覚えることになります。
本人が、離職を決断する決定的な分かれ目はこのタイミングです。
同時に職場の側として、職員の不本意離職を見過ごしてしまうか、予防できるかの大きな分かれ目でもあります。
先にみたように、20代若年者の退職理由の5位は「上司や同僚との人間関係によるストレス」です。
厚生労働省による「平成25年若年者雇用実態調査」でも、若年者が初めて勤めた会社を辞める理由の第2位が「人間関係がよくなかった」19.6%です。
その他の同様の調査でもたいてい、職場の人間関係は辞めた理由の上位に入っています。
例えば、上記の事例1~3の場合でみてみると、上司あるいは同僚とのなんらかの対話によって、十分に不本意離職を防止する余地があると思います。
【例えばこんな対話ができればよい】
- 書類作成やファイル整理の仕事からも得られる、知識やスキルへ気づきを促すこと。
- 自分らしさの発揮は英語能力に限らないことなど、経験の意味や視野を広げるための助言をすること。
- 自主的な企画の提案姿勢については十分に承認し勇気づけ、同時に、役所内のルールの意義についても理解を促すような働きかけをすること。
また多くの場合、本人の離職の決断前には兆候が見られるものです。
【例えばこんな兆候があるもの】
- 笑顔が少なく口数が減った。
- 仕事のスピードが遅くなったり、書類のチェックミスが多くなったりする。
- 本人から他の職員への話しかけが減った。話しかけても言葉数が少ない。
- 同じ課の職員とランチをすることがなくなった。
- 仕事の指示をしても、締め切り日や疑問点などについて具体的に聞き返すことをしない。
- 朝、突然の年休の連絡をして休むことが多い(時には無断欠勤も)。
- 勤務中に自分のスマホをいじったり、ぼーっとしていたりすることがある。
いずれの兆候も共通して、職場での「孤立」を現す言動です。

このような「孤立」を放置していてはいけません。すぐに対処しないと間に合いません。
しかしこのタイミングで、適切な対処があれば、防止は十分可能です。
なぜなら、この兆候は、「ここにいるのがつらい」「気持ちを分かってほしい」「できれば辞めたくない」という、本人からのメッセージだからです。
周囲のちょっとした働きかけがあれば不本意離職を防ぐことができるものです。
若者が持つ、リアリティショック(期待と現実のギャップ)を当然のこととして、そのギャップについて、耳を傾け、理解し受け容れ、承認する姿勢で一緒に考えていくような働きかけです。
③ リーダーはメンバーの力を借りれば良い
やはり一番大きな影響力を持つのは、直属の上司(グループリーダー)の存在です。
カウンセリングやコーチング、メンタルヘルスの知識やスキルがあればそれに越したことはありません。
しかし、特別なことをしなくても十分な力を発揮できます。
直属のグループリーダーが一人で背負うこともありません。
そうでなくても、リーダーにはその上の上司の「面倒をみる」ことで精一杯といった現実もあるでしょう。
ぜひリーダーは、チームメンバーの力を積極的に借りてほしいのです。

リーダーは、日頃からチームメンバーに対して、
- 「何か気になることがあったら、私に声をかけてほしい」
- 「気になるメンバーがいたら、私に教えてほしい」
- 「私に余裕がないような時には、それぞれの判断で気になるメンバーを助けてほしい」
- 「みんなのために私にできることはやる。でもできないことは私を助けてもらいたい」
こんなふうに、日頃からチームメンバーに対して、積極的に「助けになってほしい!」というメッセージを出し続けていてほしいと思います。
嫌な気持ちになるメンバーはまずいないと思います。
そして、日頃からチームメンバー一人ひとりに対して、
- 「さすが〇〇さん、ありがとう! うれしい!」
- 「〇〇さんが、〇〇をしてくれたおかげでとても助かった!」
- 「〇〇さん、いつも私の助けになってくれていて、心強い!」
など、個々のメンバーへの感謝の気持ちを、たくさん、たくさん口にしてほしいと思います。
きっと、やる気と笑顔のあふれる、最高のチーム、最高の仕事場がつくれると信じています。
4 雑感
奈良県の生駒市役所への、他の自治体からの転職者が増えていると聞きます。
現生駒市長は、職員個々人の能力開発に非常に意欲的なことで有名です。
自治体間で、優秀な人材の流出・流入現象が現に起こっています。
「できる限り自分の成長を感じられる職場で働きたい」「やりがいを感じながら働きたい」「自分を活かしたい」いう志向は、民間企業で働く社員も公務員も同じだと思います。
若者のこのような期待に十分応えられる自治体でなければ、当然、住民へのよりよいサービスも実現できないものと思います。
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