チームの中のリーダーの行動 公務員の人材育成講座【リーダー層公務員の方むけ】

こんな困りごとにお応えします。

  • 上司への説明資料作りや内部調整が続き、最近職員には笑顔がなく職場に活気もない
  • 上の上司への調整のたびに指示が二転三転し、手戻り仕事が多く職員は疲弊している。
  • 最近元気がなく心配な職員がいるけれどリーダーとして自分自身も手一杯で余裕がない。

この記事を書いているのは、関東地方の県庁で30年間公務員として働き、独立したキャリアコンサルタントです。県庁では主に産業労働の分野で、企業誘致や中小企業支援をしていました。

精神疾患による長期病休者の割合をみると、地方公務員(1.4%)は民間企業(0.4%)の3倍以上です。

世間からは、「公務員は身分保障もされているし、ぬるま湯なのにどうして?」「公務員は甘やかされているから特別メンタルが弱いの?」といった声があるかもしれません。

メンタル不調が多い要因には、2~3年ごとの異動が繰り返される、地方公務員ならではの特殊な働き方による、「過剰適応」の問題もあるように思われます。

今回は、メンタル不調の予防策とともに、より働きがいを感じながら仕事のパフォーマンスを高める働き方について、チームマネジメントの視点からお伝えします。

結論である、「3 チーム力を発揮する」からお読みくださっても結構です。

もくじ

  • 1 地方公務員のメンタル不調は民間企業の3.5倍
  • 2 頻繁な異動を伴う公務員特有の働き方も一要因?
  • 3 チーム力を発揮する
  • 4 まとめ

1 地方公務員のメンタル不調は民間企業の3.5倍

(一財)地方公務員安全衛生推進協会による「平成29年度地方公務員健康状況等の現況」調査(対象職員75万人)によると、地方公務員における、精神及び行動の障害による長期病休者の割合は、1.4%(10万人当たり1,409人)です。

また、10年前に比べ約1.4倍15年前の約2.8倍年々増加傾向にあります。

地方公務員のメンタル疾患の推移

一方民間企業の場合、厚生労働省による「平成29年労働安全衛生調査」(全国8,674事業所)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月上休業又は退職した労働者の割合は、全業種平均で0.4%です。

地方公務員のメンタルヘルス関連での病休者の割合(1.4%)は、民間(0.4%)の実に3.5倍の多さです。

2 頻繁な異動を伴う公務員特有の働き方も一要因?

公務員は2~3年ごとに人事異動があり、異動のたびにまったく異なる職務分野へ移るのが一般的です。

例えばある県庁の中で、建築指導課2年 → 障害福祉課3年 → 産業振興課2年 → 学校教育課2年など。 

さらに、公務員の仕事はチームプレーというよりも個人プレーによる「一人親方」的な仕事のあり方も多いです。

例えば、建築指導課では宅建業法に基づき事業所への監督指導を担当、障害福祉課では障害者施設への補助金交付を担当するなど、関係規定に基づいて一連の仕事をすべて一人でこなすような担当職務もざらです。

関連法令の解釈や、要綱要領や国のガイドラインなどの適合性確認などが必須なうえ、許認可やお金を扱うところでもあり、ミスは許されません

人事異動がある場合、前任者との1対1での事務引き継ぎ期間は、せいぜい1週間程度です。1年分の職務内容を把握するのはとうてい困難ですが、引き継ぎ後は不安の中でなんとか手探りでやっていくことになります。

職場のリーダーも、各メンバーの仕事内容はある程度把握していますが、細かな取り扱いまでは把握しきれません。

公務員になる人は総じて賢い人が多いと思います(ちなみに私はずっと偏差値50なので賢くありません)。たいていの場合、こんな環境にあってもなんとかこなします。

上司をはじめ周囲の職員にも、このように、新しい職場や環境への適応は「それこそ公務員の仕事であり、できて当然」。

さらには後任者への期待も、「前任者と同じ水準」での仕事が「できてあたりまえ」という大前提があります。

その仕事への事前知識があろうがなかろうが、前任者より職位が低かろうが、関係なく仕事を渡されます。

公務員の「常識」です。

このような環境においては、個人の能力水準とは別に、常に組織からは一定以上の能力水準が、どの公務員に対しても暗に要求されることになります。

このようなことが、一部の公務員には “過剰適応”を迫る結果を招いていると推測でき、メンタル不調の一要因にもなっているように思われます。

特に「できる」職員の後任者となるような場合、重圧感は半端ないものがあります。

3 チーム力を発揮する

① チームのパフォーマンスを左右する「心理的安全性」

「心理的安全性」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

チームメンバーが心身ともに健康で、やりがいを感じながら生き生きと働き、チームとしての機能が最大化し、高い成果を達成するためのキーワードです。

この考え方は、アメリカの組織行動学者エイミー・エドモントン氏が提唱しました。

Google社が2012年から4年をかけて取り組んだ労働改革プロジェクトの結果からも、この「心理的安全性」がチームとしてのパフォーマンス向上のカギであることが実証されています。

「心理的安全性」とは、“言いたいことを率直に言える風土”のことです。

心理的安全性とチームの成果との相関があることが実証されています。

例えば、次の点について自分の職場(チーム)を考えてみてください。

・否定される、批判されるといった心配をせずに自分の意見を言えるでしょうか?

・発言しない方が無難だという雰囲気はないでしょうか?

・組織や仕事への課題や改善点をためらいなく言える雰囲気はあるでしょうか?

例えば、身の回りでこのような姿はないでしょうか。

・説明資料の上司からのダメ出し内容が、明らかな事実誤認による的外れの指摘であっても、とりあえず言われたまま修正してしまう。【面従腹背型】

・課長の机上の決裁文書を早く処理してもらいたいが、「どうせいつものことだから」と思い黙っている。【あきらめ型】

・新たな業務に伴って条例改正手続きが必要だとわかっているが、上司からの指示がないので放っている。【受身型】

・一人で忙しそうにしている職員のことは気になるが、声をかけると自分の仕事が増えるので黙っている。【非協力型】

・上司から指示を受けているが、具体的な締め切り日を言われていないので催促されるまで何もせずに放っている。【開き直り型】

いずれも、お互いに“言いたいことが率直に言える風土”がないために、組織としてのパフォーマンスが低下してしまっている、よくある事例です。

② チーム成果の4タイプ

チームの業績とチームの活き活き度の関係性について、㈱産学連携機構九州の青島美佳氏による分類をもとに、役所でありがちな場面をイメージしてみます。

例えば、チームメンバーが活き活きとしていて評価も高いチームは、第1象限「活き活きチーム」。どちらも低い場合は、第4象限「名ばかりチーム」です。

チーム成果の4タイプ

第1象限:活き活きチーム

新事業への取組みにも積極的で、メンバーに笑顔とやる気が満ち溢れている職場。

メンバー同士、互いに助け合いの行動がとれ組織としてのパフォーマンスも高い。

リーダーは常にメンバーを気にかけ、意識的な声かけを欠かさない。

第2象限:ゆるゆるチーム

メンバーは比較的和気あいあいと働いているが、チームとしての目標共有はなく、仕事への使命感や責任感などは感じられない

非効率で無駄な作業が多い。

第3象限:きつきつチーム

上意下達の中で、上から求められることはなんとかこなしている。

一方で、メンバーは高いプレッシャーの中、常に疲弊、高ストレス状態にありメンタル不調者が発生しがち。

メンバーからの、当日朝の突然の電話での年休取得申請も多い。

職場リーダー自身も多くの仕事を抱え、常に上司の顔色をうかがうことを優先し、メンバーを気に掛ける余裕はない。

第4象限:名ばかりチーム

チームメンバー間に会話が少なく全体に冷めた雰囲気が漂っている。

余計なことはせず、与えられた仕事を受身的に淡々とこなしているだけ。

リーダーをはじめメンバー同士も互いへの関心を示さず、助け合いの行動もない。

「一人親方」的な仕事の多い公務員の職場ではよくみられる風景です。

③ チームパフォーマンスを上げるリーダーシップ

組織風土の7割はリーダーのあり方に左右されるといわれるように、チームとしてのパフォーマンスに与えるリーダーの影響は非常に大きいものです。

以下、課題のある「名ばかりチーム」「きつきつチーム」「ゆるゆるチーム」を、「活き活きチーム」に変えていくためのリーダーの積極的な変革行動をお伝えします。

「名ばかりチーム」への変革行動

チーム内で、「心理的安全」の場が確保されていないことが多いため、リーダーはまずコミュニケーションの下地を固めることから始めることが必要です。

笑顔が見られる職場、互いに挨拶や何気ない会話ができる職場をめざすことです。

そのためには例えば、リーダーが毎朝自分から挨拶をする、一人ひとりに声をかける意識的に「ありがとう」のお礼を言う自分の机の前には椅子を置いて立たせたままの報告をさせないように工夫するなど。

安心と信頼の場が作れれば、仕事上のストレスが大きかったり、多少残業が多くてもなんとか乗り切れるものです。

「きつきつチーム」への変革行動

このタイプのチームリーダーは、仕事の成果や上からの評価に目が向いていて、メンバーの気持ちや今の状況への配慮が苦手な実績重視型リーダーです。

チームメンバーが力を発揮することによって、全体として成果を上げていこうといったことよりも、自分自身が引っ張り上げることによって成果を達成するという、自分が主役となってしまっています。

もっと、メンバー一人ひとりと対話の時間を持って、現状の課題や問題についてメンバーの心情を汲み取るような姿勢が重要です。

メンバーに一人ひとりに仕事を任せ、活躍の場を与え、必要に応じて側面支援するような意識の転換と役割行動が求められます。

「ゆるゆるチーム」への変革行動

このタイプのリーダーは、チームとしての成果を上げることよりも、チーム内で無難に仕事をしていくことに重きを置きがちです。

メンバーに対して、ビジョンや方向性を示したり、期限を切った明確な指示を出すのが苦手なリーダーです。

活き活きチームにするためには、現在のコミュニケーションのベースは崩さずに、チームとしてのビジョンや達成目標を具体的な数値で提示して、メンバーの意識と行動の方向性を一つに向けることが大切です。

メンバーへの具体的な役割を示し、仕事への使命感についての意識付けをするため、常にメンバーへの適時的確なフィードバックを欠かさないことが大切です。

人間関係を壊したくないといった理由から、仕事上リーダーとしてはっきりと言わなくてはならないことを言えないことがしばしばあります。

一職員として十分な仕事ができていないと感じられる場面では、そのことをきちんと部下に伝える、フィードバック行動が何より重要です。

目標設定と役割分担のポイント

4 まとめ

職場内でメンタル不調者を出さないことはもちろん、良いチームづくりにはリーダーによるマネジメント力が大きく影響します。

リーダーは、メンバーが期待している行動ができないときには、自分のマネジメントではなく、メンバーの態度ややる気に原因があると考えがちです。

チームの実力発揮に向けてすべきことは、メンバーの性格や資質への着目ではなく、リーダーからメンバーへの働きかけにあります。

リーダーがビジョンを示し、メンバーを信頼し任せるものは任せ、仕事のやり方や意義をメンバーに繰り返し伝え、タイムリーで適切なフィードバックを、リーダー自らの行動で示すことが何より大切なのです。

最初はやはりリーダーからの積極的な働きかけや、リーダー自身が率先してモデルを示していくような意識的な行動が重要です。

しかしそのうちチームが活性化してくれば、チームメンバー間での支えあい、助け合い、教え合いの行動が徐々に増えていくような変化が出始めます。

リーダー一人が頑張らなくても済むようになりますし、メンバーそれぞれが自分の持ち場で、リーダーを補佐してくれるような動きが自然に発現します。

リーダーは最初の「スターター」としてのリーダーシップで十分です。

気負うことなく、メンバーの力を信じ、時には自分の弱点もさらけ出してメンバーに助けをけを求めるような「かわいらしさ」もリーダーとしての実力の一つです。

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ABOUTこの記事をかいた人

NORI(ノリ)

元県庁職員でキャリアコンサルタントをしています。公務員の皆さんの"人生戦略”や”キャリアの自律”を応援する記事を書いてます。キャリアコンサルタント(国家資格)、キャリアコンサルティング技能士2級(国家資格)、中小企業診断士(国家資格)、産業カウンセラーの資格は県庁勤務の時に取りました。