このような疑問に応えます。
- AIの急速な発展で公務員の仕事は奪われるのか?
- これから公務員としてやっていくためにはどのような能力が必要なのか?
この記事を書いているのは、関東地方の県庁で30年間公務員として働き、独立したキャリアコンサルタントです。県庁では主に産業労働行政の分野で、企業誘致や中小企業支援をしていました。
AIをはじめとした、第4次産業革命の進展によって、公務員の仕事のあり方が大きく変わろうとしています。
一部のルーティン業務はAIにより自動化・省力化され、その業務はいずれ、まるごと民間企業へ委託されていくような変化です。
そして役所は常に、新たな社会ニーズや課題に対応する業務に取り組んでいくような、スクラップビルド型の仕事のあり方に変化していくだろうと考えます。
これからの自治体の役割は、社会ニーズへの感受性や、創造的な対応力、仮説検証による経験学習能力などの頭脳部分を担い、それらを行動に移すための動力、つまり身体部分は順次、民間企業に任せていくという方向性です。
もくじ
- 1 自治体業務におけるAI技術の導入
- 2 既存業務の民間委託化が進む
- 3 これからの公務員に求められる人材
- 4 雑感
1 自治体業務におけるAI技術の導入
第4次産業革命、つまりコンピュータの処理速度の加速度的進化によって、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ロボットによる業務の自動化技術が急速に向上しています。
これに伴い、すでに公務員の働き方も大きく変化しています。
身の回りを見渡してみても、ここ5年でこのような変化はなかったでしょうか。
- 1人1台のパソコン導入で庶務事務は本人入力が基本になり管理職員が削減された
- 1人1台のタブレット端末支給によりテレワークの導入や実験的な取り組みが始まる
- 電子決裁システムが導入され、決裁時間の短縮とペーパーレス化が図られる
- 本庁と出先機関の会議がSkypeやZoomで行われるようになり出張回数が減った
民間に比べると、自治体でのAI導入の速度はだいぶ遅いのですが、先進的な自治体では様々な取り組みが行われています。
【住民サービスの充実を目的としたAI導入】
- 各種情報や手続きについてAIが多言語で自動的に応答するシステム(札幌市)
- スマホを使い過疎地域の住民の困りごとを聞く御用聞きAIシステム(京都府南山城村)
- 保育施設の空き情報と待機児童情報とのマッチングシステム(さいたま市)
【既存業務の効率化を目的としたAI導入】
- 知事記者会見の会見録を自動作成して短時間で提供するシステム(徳島県)
- ふるさと納税に係る一連の業務の自動化(熊本県宇城市)
- 道路補修のための道路監視及び損傷度の自動判定システム(千葉市)
2 既存業務の民間委託化が進む
上記のようなAIで代替可能なルーティン業務は、将来的には、まるごと民間企業に委託されるようになると推測できます。
住民のプライバシー情報の管理、セキュリティ上の不安から、役所が自らやるべきとの意見もあることでしょう。
しかし既に、駐車違反の取り締まり、図書館運営、各種調査の委託、職員の旅費計算や福利厚生に関する管理業務など、個人情報を含む業務でも、委託先との守秘義務契約を前提に広く行われています。
また、上に記したAI化業務(行政情報の提供、待機児童対応、ふるさと納税、道路補修等)は、全国どの自治体にも同じように存在する業務ばかりです。
例えば、実証実験に参画したシステム開発会社が、他の自治体に同様のシステムを売り込み、自ら業務をまるごと受託するといった動きも当然出てくるものと思われます。
一方、行政効率という視点からは、各自治体がばらばらの取組みをするのではなく、総務省らが音頭をとって統一的な基本システムを提供することが望まれます。
3 これからの公務員に求められる人材
社会の変化と多様化が急速に進む社会にあって、各自治体ではますます、その地域ならではのニーズや潜在的な課題に対応する能力が問われるものと思われます。
そのような中、これからの公務員には次のような能力発揮が求められます。
- 環境変化への柔軟性と、住民から真のニーズを汲み取ることができる感受性と対話能力
- 顕在ニーズ、潜在ニーズを解決するプランの企画能力と説明・説得能力
- 新たな企画案を実行に移すための行動力と、改善のための仮説検証能力
- 既存業務のAI化に向けて、システム開発会社との橋渡しができる能力を持つAI人材
つまり、0から1を生み出すプロセスは人間が担い、1を100にする仕事はAIに任せていくという流れです。
4 雑感
今でも役所では、「スピードよりも正確さが優先」という「常識」があります。減点主義の組織では、ミスをしないことが最優先になりがちだからです。
そのような組織では、内部から自発的に変化が生じることは少なく、変化はたいてい外部圧力によってやってくるものです。
一部の自治体では、役所独特の組織文化や「常識」を覆すような首長が選出され、その都度大きな戸惑いを覚える職員の姿もよく見聞きします。
職員一人ひとりが、社会の変化に対し自分の眼を持って判断し行動する姿勢があれば、何事にも動じることはなく適応できるものです。
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