えっ!、公務員って副業禁止でしょ!
たしかアパート経営とか本の執筆とかなら、いいんでしょ!
そうですよね。そのとおりです。
でも、これからは今よりも、もっともっと広がりをみせていくと思われます。
一方、私たちの方でも、「人生100年時代」を見据えて、特定の職場だけではなく自律的な人生戦略を考えるチャンスでもあると思います。
この記事を書いているのは、関東地方の県庁で30年間公務員として働き、独立開業したキャリアコンサルタントです。
■もくじ
- 1 副業解禁の3つの背景
- 2 そもそも「副業禁止」の法的根拠とは?
- 3 まとめ
1 副業解禁の3つの背景
1つ目の理由は、社会福祉法人やNPO法人など地域活動分野での人材不足。
2つ目の理由は、増加する公務員人件費の抑制手段。
3つ目の理由は、事実上の年金制度崩壊に伴う公務員の経済的自立の推奨。
① 地域活動分野での人材不足対応
兵庫県神戸市は、全国に先駆けて副業容認に柔軟な対応を始めた自治体です。
神戸市役所では2017年4月に、「地域貢献応援制度」というものを創設しました。
阪神大震災から20年以上が経過し、復興を進める上で重要な役割を担っていたNPO法人や地域団体で、人手不足や高齢化が課題となっていました。
そこで、このような地域活動の持続的な活動を手助けする目的で、副業を柔軟に認める基準を設け、市役所職員が団体から報酬を受け取りながら活動に携わることを容認しているのです。

奈良県生駒市でも、神戸市での先進事例を参考として、副業容認基準を公開しています。
以下、『公務員の未来予想図』生駒市長小紫雅史著からの抜粋です。
「地域に飛び出し、まちづくりに貢献する活動を推奨し、その中で発生する報酬を受け取っても良いとする副業の基準を整備しました。また、地域に飛び出す活動は、職員の人生を考えたときにもきっとプラスになるか、地域活動から学んだことや人的なつながりが公務員としての本業に役立つこともあります」
神戸市よりも積極的に副業を推奨しています。
② 公務員の人員削減と人件費抑制の流れ
2018年総務省による「自治体戦略2040構想研究会報告」では、IoT、AI及びロボティクスなどの技術革新が役所の基幹業務へ大きな変革をもたらすであろうことが記されています。
定型的で単純な業務は自動化・省力化され、現在の人員は過剰になることが容易に予測できます。
さらに最近では、毎年確実に増え続けるであろう再任用職員の人件費負担も課題です。
正規職員を大幅に減らす一方、定型業務を補助する任期付き職員などの非正規職員が増える可能性はあります。
さらに役所の定型業務や管理施設の民間委託化もさらに進められていくと思われます。
このところ、民間企業での「早期退職ドミノ」が連日報じられています。
東京商工リサーチによれば、上場企業における2019年6月時点での早期退職募集は8,178人。半年で既に前年1年分(4,126人)の2倍という勢いです。

裏返して言えば、会社側としてはたとえ一度期に数千人規模の雇用調整をしても、業務に何ら支障が生じないような体制構築がすでに完了していることを表しています。
役所の場合、民間のようなドラスティックな雇用調整はできないとは思います。
しかしまずは副業容認を助走とし、その後徐々に、退職金割増の勧奨退職制度を活用した雇用調整が進められていくという構図になるものと思います。
既に内閣府では、「官民人材交流センター」を設置して45歳以上の国家公務員の民間への再就職支援に力を入れています。
③ 公務員の経済的自立基盤の確保
政府自身が認めているとおり、年金制度はすでに当てにならないものとなっています。
「生涯の生活設計は、自力でがなんとか頑張ってくださいね」といったスタンスです。
公務員の数は、国家公務員と地方公務員を合わせると全国で274万人(H30公務員白書)。
固定的な財政負担は莫大です。
公務員だけが、いつまでも守られた存在であるはずがありません。
副業活用による経済的基盤の強化などもやむを得ない防衛策かもしれません。
2 そもそも「副業禁止」の法的根拠とは?
実は法律上、地方公務員の副業は禁止されていないのです!
以下、地方公務員法第38条をご覧ください。
(営利企業等の従事制限)第三八条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。
よーく見てみると、「任命権者の許可を受けなければ」とあります。
裏を返せば、知事や市長らの「許可」があればオーケーということになります。
また、第2項では、その許可基準は、「人事委員会が定めることができる」とあります。
つまり、副業の許可基準は全国一律ではなく、各自治体で判断し運用できるものなのです。
革新的な取り組みをしている、兵庫県神戸市や奈良県生駒市は全国の自治体に先駆けて、副業の許可基準を制定・公開しています。
生駒市長は、職員の副業をむしろ積極的に推奨する立場をとっています。
地域貢献だけでなく職員の能力開発の一環としてもとらえているほどです。
ただし当然のことながら、法律や条文の目的や趣旨に配慮した解釈や運用が必要です。
地方自治法38条の趣旨には、憲法15条「すべての公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」の考え方を基礎としています。
ですから、副業においても一部の者が収益を得るような、営利性の強い事業などについては、当然、許されるものではありません。
3 まとめ
このように多面的な事情や社会背景を伴い、公務員の副業の容認範囲は広がりつつあると思います。
奈良県生駒市の例では、副業での経験を人材育成の手段としても捉えています。
小紫市長はこのように言います。
「むしろ優秀に育った職員が民間企業からどんどんオファーをもらえるようでなければならない」。
「他の世界でも活躍できる人材を育てられる組織には優秀な人材がどんどんやってくる」
こんなふうに言い切っています。
役所という一定の枠を超えた経験からこそ得られる、人生としての学びの意味を、時間軸と空間軸の両方の視点で捉えています。
これこそ、公務員にとっての “キャリアの自律” に通じるものだと思います
コメントを残す